華やいだ季節と未来のために必要なこと | ひとりごと | 心理カウンセラー 衛藤信之 | 日本メンタルヘルス協会

えとうのひとりごと


■華やいだ季節と未来のために必要なこと
2001年4月4日
 春です。やさしい季節です。いつも見慣れた景色を異空間に変えてしまう。そんな華やいだパワーが桜の木にはあります。そして、人にもそんな艶やかな季節があります。

 結婚式も愛する二人には輝かしい季節です。この春、結婚式に招待を受けることが三度ありました。いつもなら結婚式への参加はご遠慮をさせていただくのですが、今回の三組は新郎も新婦も心理学ゼミの受講生。そしてスケジュールもうまく調整できるという偶然。「偶然が重なるのは意味があるのかな」「渡米前に受講生に少しでも喜んでもらえるなら恩返しかな」とご招待に喜んで応えました。

 仕事の合間を縫ってかけつけては、次の仕事のためにそーっと抜ける。そのようにして参加した、それぞれの結婚式は、二人の真心と決意に満ちた素適なものでした。

 「結婚とは、いかなる羅針盤もかつて航路を発見したことがない荒海」とドイツの詩人ハイネは言っています。たしかに結婚も含め人間関係は確実に「これが完璧な航路だ」と言うものがありません。つねに手探りなのです。でも、この手探り感覚、不安定な関係だという自覚が大切なのだろうと思います。

 「絶対にこの関係は大丈夫」「相手のことはすべて知っている」「二人の関係は終らない」と思っていた二人が「約束のはかなさ」「人の心の奥深さ」「人間関係の不安定さ」を強制的に教えられ、いかに多くのカップルが別れていったことだろう。僕も両親の離婚や父の浮名を流した数多くの恋愛の影に幼い頃から住みながら、イヤと言うほどそれを教えられました。そう、人の約束の儚さを・・・・。
 だからこそ、会話がかもし出す誤解や微妙なズレの怖さは知っている。そして、安定の上にあぐらして、語り合わないことで失ってゆく関係の脆さも。

 「灯台もと暗し」安定した基盤の夫婦関係にこそ注意を注ぐことが大切です。違う体と二つの心、混ざり合うことは決してないのかもしれない。二層に別れたドレッシングに、時々シェイクがいるように。
 そう相手の笑顔の裏にあるカゲリに。ふとした相手の背中にある重荷に注意をはらいたい。それをしなくなった時に夫婦には大きなミゾが生じてしまうのです。大きなミゾになる前にお互いにスキマを埋める気づかいが必要です。

   「予防の1オンスは治療の1ポンドに勝るといいます」
熱いお風呂に勢いよく飛び込のか、そっと熱さを確認しながら風呂に入るのかではヤケドの危険性は、ずいぶん違うものです。

 カウンセリングの相談や周囲の別れたカップルを見ていると、互いに求めつづける期待値の高さと、相手に対する甘えが見え隠れするのです。
 お互いが出会った最初の頃は良いのですが、結婚し長年連れ添っていると「してくれて当然だ」「このぐらいは言わなくても理解してくれるはずだ」
 このように相手に対して期待ばかりをかける甘えの心理が出てきます。「してくれてあたりまえ、してくれないのは相手が悪い」これは子供が母親に自分の望むように動いてくれてあたりまえ、自分の気持ちを解らないのはママが悪いと思う心理に似ています。

 ですからカウンセリングでは子供っぽい甘えの心理を母子一体感と呼びます。また子供の心理は、運良く他人が、こちらの望むように動いてくれたとしても感謝するどころか当然と言う気分になり、傲慢になります。これが子供特有の自己中心性です。

 そして相手のいまだに足らないこと(自分にとって)、(こちらにとって)至らないところに腹を立ててゆくのです。これが身勝手な子供の心理なのです。なぜなら、親に対する感謝を、ほとんどの子供は意識しないからです。それらに感謝できるようになるのは心理的に大人になってからです。

 「親しき仲にも礼儀あり」これが出来るのは大人の心理です。大人は親しい人にも感謝を忘れません。外では善い人、家庭で暴君になる人は家庭の中でわがままな子供なのです。
 相手が自分の欲求をかなえてくれるうちは優しいのに、自分が望むようにならなくなると一変して不機嫌になります。怒鳴ったり、理屈をこねて弱い相手に理論で言い負かしたりと、バリエーションも様々です。
 どちらにしても感情の起伏が山の天気みたいにふとしたキッカケで変わるのですから、自己中心的な子供のような大人とかかわるだけで周囲の人は神経をすり減らします。

 本当の強さは安定感です。本当の大人はムキにはならない。大人は子供と戦う時には真剣になりません。相手を守りながら戦いを楽しみます。感情的にムキになり、勝負けにこだわるのは子供だからです。

 相手は自分と違う人生で生きてきたのです。ですから、お互いに共通点もありますが違いも確実にあるのです。なぜなら、相手はこちらの都合で動く便利なロボットではないからです。その違いを認め合いながらも一緒に生きてゆこうと決意するのが夫婦の秘訣です。もちろん、甘えることもあるでしょう。期待することもあるでしょう。でも、それが「あたりまえ」ではないことを思い出したら感謝を忘れないことです。そしてその素直な心を機会をみて相手に確実に伝えることです。

 「そんなことは相手に言えないですよ」「言わなくてもわかってくれるはず」が、そもそも子供の心理から来るものなのです。 そしてお互いに語り合って、伝え合って生きてきた先に「言わなくってもね、わかりますよ。お爺さん(お婆さん)」になる。そんな老夫婦になって、ゆっくり散歩でもしながら二人で桜を楽しみたいものですね。
 
   結婚式に招待をされて僕が作った詩があります。
 
 君の夫や妻は、君のものではない。

    ある家庭で愛されて育てられた、大切な息子であり娘である。
 これから、君達二人は共に暮らしはするが、決して相手が君に属することはない。

  君は相手に愛情を注いだとしても、相手に君の価値観を押し付けてはならない。
       なぜならば、相手には、相手の考えや価値観があるのだから。

   君が相手を理解する努力をしたとしても、
           君が理解されないことで相手を責めてはならない。

 なぜなら、愛は与えるものであり、
            与えることにこそ喜びを感じることが真の愛だからだ。

               by 衛藤信之 

満開の桜の花を見ながら、それぞれの夫婦が人生の花を咲かせることを祈りながら……

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