風のささやき | ひとりごと | 心理カウンセラー 衛藤信之 | 日本メンタルヘルス協会

えとうのひとりごと

■風のささやき
2004年4月8日

 
 言葉にならないコミュニケーションがある。目に見えない言葉がある。風のように、透明な・・・・・
 
 人は言葉のコミュニケーションに疲れた時に、何気ない優しさに救われる時がある。笑顔であったり、やさしい視線であったり・・・・。
 
 言葉のコミュニケーションが大切であることは知っていて、教えもするのですが・・・・・静かな心が流れ出す瞬間もいいものだ。
 夫婦でテレビを見ながら、何気なく飲物を二人分、冷蔵庫から運ぶ瞬間であったり、僕が疲れてソファーで居眠りをしている時に、そっと家族の誰かから、毛布が掛けられる瞬間であったり。

 小学校の時、盲腸で病院に担ぎ込まれた夜。いつも恐くて話すにも緊張していた父親。その父が「大丈夫だ」と、ひとこと言って、その大きな手で、布団をやさしくたたいて僕を寝かせようとしたことがあった。その不思議に優しいリズムが、終る前に眠りたいと心から願った夜・・・・いつまで、あの手は、僕の布団をたたき続けてくれたのだろう・・・・・・そんな言葉にならないコミュニケーションが、今の僕を生かしているように思う。

 だから、どんなに遅く帰っても、眠っている子供の頭をなぜるようにしている・・・どんな夢の世界へ彼らが旅立って行っていても、パパは、いつもお前達に寄り添っているからねと念じながら。

 だから、この世を去る時には、僕は風になりたい。どこから吹くのかわからないけど、でも、確かに吹いている風に。目には見えないけど、でも、いつでもどこでも、そこに吹く風に・・・・

 心と風はとっても似ている。誰も見た人はいない。でも、誰もがその存在をいつも感じている・・・・

 悲しい時も、うれしい時も、いつも、風は僕達の隣りをすり抜けてゆく。悲しいことは「風に流しなさい」と、うれしい時は「よかったね」とか「誰かに感謝を・・・」とか、いろいろなメッセージをたずさえて。

 この季節、桜の花びらを風が飛ばしてゆく。「次の準備をしなさい」と・・・・「悲しさも、よろこびも、一時味わったら、歩き出さなくては」と語りかけるように・・・風が、そっと背中を押してくれる。

 「風」と「桜」が教えてくれたこと・・・「別れ」が、「出会い」のエピローグなのだと。「死」と「再生」は、永遠に入るためのパスポート・・・・・・
風が風車をまわすように、季節はくり返し、春から夏へ、そして、秋から冬へ、そして、いつか見たなつかしい季節へと、また・・・

 風は「永遠」からの、便りだから。

 今は亡き母と父が、恋に落ちた瞬間に吹いた風は、今、僕の横を通り過ぎたかもしれない。母が淋しくて公園で涙を流した時に、「貴女が愛した僕は、こんなに強くなったよ」・・・・それを風が過去に伝えてくれるなら・・・その時、ひと時でも、母の涙を乾かせるかもしれない。

 「風」は未来から過去へ、過去から未来へと、人の気持ちを運んでくれる・・・そんなおとぎ話みたいなことでも僕は信じてみたい。

だから、おだやかな風の日は、大人になっている未来の子供達に、僕は語りかける。「決して君達は一人じゃない」と、風がやさしく彼らの頭をなでてくれることを心から信じて・・・・

 今日、僕がささやいた言葉を、風が、過去か、未来の誰かに吹くだろう。たくさんのメッセージを抱えて、ささやいてくれるだろう。もちろん、その誰かが信じればの話だけれど。

 だから、そっと耳をすましてごらん。

 いま、この時にも、窓の外で風がささやきながら吹いている。その苦しみ、孤独も「すべてに意味があるのだよ」と・・・桜の花のように涙のしずくをすっかり、吹き飛ばそうか・・・・・・








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