季節のかおり | ひとりごと | 心理カウンセラー 衛藤信之 | 日本メンタルヘルス協会

えとうのひとりごと


■季節のかおり
2008年3月25日



 春との再会。季節は変わらずに訪れる。懐かしい友人に逢ったように・・・どの季節にも、懐かしい思い出と香りがふくまれている。

 春・・卒業や入学のシーズン。光の中にかさなる思い出のシーン。多くの出会いと別れ、帰れない日々。人生を、やり直したいとは思わないけど、その優しかった思い出のシーンを外から、そっとのぞいてみたいと思う。

 初恋の人と時間を忘れて語り合ったある日のグランド。寝そべっていた芝生のにおい。そういえば、香りと思い出はつながっている。夏の校庭に水をまいたグランドの香り。
 おひさまいっぱいに浴びた、やさしいシーツの香り・・・・

 これからも出会うであろう未来のワンシーン。それぞれのシーンが、過去に走り去って、折り重なってゆく。本棚の隅に眠っているアルバムのように・・・・。
 でも、こう考えてみると思い出が多いのは時間をぜいたくに使っている時。教室からボーっと校庭を見ている時だったり、これから眠ってもいいし、ボーっとしてもいい時だったりして・・・

 そんなボーっとした時間と出会うことも、人生には大切なんですよ。いつも、めいっぱいスケジュールの中で、自分にきびしく「喝(カツ)」をいれていると。見えないシーンの香りがある。

  今、この時の香りを感じませんか。
  あなたは今この時の香りを楽しめていますか?
   それは、僕にもあなたにも・・・・とても、必要なこと。

   アロマオイルよりも、花の香りよりも、季節の香りには人を癒す力がある。

 先日、ある病院のベンチで、お年寄りのおばあちゃんに、「しっかりしてくださいよ。ねえ、聞いているんですか」と誰かが、きびしく声をかけている風景を見た。でも、見ると老人の顔がウトウトして幸せそうなこと。

 老人のまどろみは夢の中へのトラベル。たくさんの懐かしいシーンの中を漂っているようにも思えてしまって、介護している人も大変なのだけど・・・

 おばあちゃんもお気の毒だなと思った。

 連日、流れる殺風景な事件。あわただしい時間の流れに、ため息をつきたくなる世界・・・・・・・・あなたは夢の中にいてください。


   〜 老人の午睡 〜

 わたしの夢を消さないでください。今、愛する人と手をつないでいるから・・
    ゆり起さないでください。わたしは静かな時間にいるのだから・・・・
 あなたが呼びかけている老人は、そこにはいません。
                そこにいるのは思い出の中のかわいい少女。
 いまは、そう、母の背におぶさった幼い娘。
        次の瞬間には、弟と手をつないで帰る夕げへの楽しい帰り道。
 その娘はキラキラ笑う子で、母のヒザが好き。
   祭りの縁日、赤い着物がきれいでしょ。と、また笑う。

   遠くで誰かの声がするの、そこには今は戻りたくないのです。
 だから、揺り起さないでください。やさしい時に落ちているのですから・・・・

 いま、この世には、もういない思い出の母に頭をなぜてもらっているから。

 だから、そんな大きな、とんがり声で、夢から私をもどさないでください。いま、しばらくは、やさしい世界を感じていたいのです。

 いつかは戻らないといけない、この殺風景な世界へ。かなしい現実のもとへ。
            あわただしさだけが待ち受ける、今の時へと・・・

 だから、今しばらくは・・・・あの頃を味あわせてください。




 こんなひとり言を頭に想像しながら、病院の庭を後にしました。僕は、ふと思いました。
 今の世界は、そんなに大事ですか?夢の世界に居ることよりも、優先しなくてはならないのでしょうか。食事をすることや、トイレすることが・・・・。
  ふと、人は立ち止まり、想像力を働かせることも大切ですね。

   お年寄りを起こす時には、こんなことを考えてみてはいかがでしょうか。もちろん、介護の大変さに疲れている人もたくさん僕は知っている。だから、ほんとうにご苦労さまです。

 大切なことは、なにが良い、なにが悪いという二元論ではなくて、このような考えを頭に入れることも、介護される人と介護する人を、すこしだけ苦痛から解放されるような・・・・気がするのです。

   春の日はそんなたくさんの懐かしい香りに出会える季節。
                 あなたも香ってみませんか?

 春の日向は、夢の世界への道先案内人。
  ぼくも時には瞳をとじて、思い出の世界にただよいますか・・・・・あの頃へ
         これって現実逃避ですか?

            そんなことを思うある日の午後でした。











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